月刊J-LIS 2020年8月号

巻頭インタビュー 木澤 真澄(株式会社トラストバンク取締役兼パブリテック事業部長)

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、注目を集めているのが、国内初の自治体専用ビジネスチャットアプリ「LoGoチャット」です。LGWAN-ASPサービスとして提供されており、自治体での導入が比較的容易であることから、全国の自治体で導入が進んでいます。
 このLoGoチャットの仕組みやセキュリティ対策等について、開発・提供元である株式会社トラストバンクの木澤真澄取締役兼パブリテック事業部長にお話を伺いました。

情報共有イメージ

セキュリティレベルの高いLGWAN-ASPサービスとして提供

── 「LoGoチャット」とはどのようなサービスなのでしょうか。

木澤氏  簡潔に言うと、自治体職員の方々が、庁内や他の自治体との間でのテキストや各種ファイル、写真などの送受信を、通信の安全性の高いLGWAN上でできるPC・モバイル端末用ビジネスチャットアプリ/サービスです。LGWAN-ASPとして提供されるクラウドサービスですので、特別な機器やシステムを導入することなく、全国の自治体ですぐに使うことが可能です。令和元年9月13日に、アカウント数無制限で1年間の無料トライアルを受付開始しており、本年1月にはモバイル端末用アプリの提供を開始しました。

── 一般的なビジネスチャットツールと比較するとどのような特徴がありますか。

木澤氏  大きく3点あります。
 まず1点目は、LoGoチャットがLGWAN環境で使えるクラウド型ビジネスチャットであることです。ご存知のとおり、LGWANとは、機密・個人情報を扱う行政の業務に対応するため、インターネットと分離しセキュリティの高い環境を保っている自治体専用のネットワークです。LoGoチャットは、すべての自治体が利用可能なLGWAN-ASPサービスとして提供されているため、オンプレミス型のサービスに比べて初期コストや運用コストを抑えるとともに、運用負荷も低減することができます。導入時も、Web会議でセキュリティ設定やユーザー登録の方法などを説明すれば、わずか1時間ほどで利用できてしまいます。
 2点目の特徴は、LGWAN環境に加えてインターネット環境でもセキュリティを確保しながら使えることです。モバイルアプリもありますので、外出先の現場や出張先などからもチャットができるほか、自治体の許可を得た外部の民間事業者とのやり取りも可能です。特に、最近急増しているテレワークでは、インターネットを介しての利用は欠かせないと言えるでしょう。現在、民間企業で使われている多くのビジネスチャットツールの場合はインターネットでのみでの利用となるのに対して、LoGoチャットは、LGWANとインターネットの両方が使えるクラウド型のビジネスチャットツールで、これは国内初となります。
 そして、3つ目の特徴が、LGWAN-ASPサービスとして提供されているため、複数の自治体同士でも簡単に利用できることです。これまで電話やメール、リアルな会議などで行ってきた自治体同士のコミュニケーションが、安全なネットワーク環境のもとでスピーディに効率よく行うことができます。当社では、自治体同士がチャットを通じてある事業に関する相談をしたり、特定のテーマにかかわる研究会を立ち上げたり、さらにはシステムの共同調達や様々な広域連携などをオンラインで実現してもらうことなどを、想定していましたが、実際にはそれ以上に活用の幅が広がっています。
 現在、LoGoチャットの導入自治体は全国441団体でユーザー数は約23万人以上ですが、このうち1,200人ぐらいのユーザーがテーマごとのトークルームで日々議論を繰り広げています。例えば最近ですと、特別定額給付金にまつわる情報交換や議論などが活発に行われていたようです。

── セキュリティ面はいかがでしょうか。

木澤氏 総務省の「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を踏まえ、不正プログラムが侵入する可能性があるファイル形式に関しては、LGWAN接続系には送信できないように制限がかけられています。また、端末認証でアクセスできるモバイル端末を制限する、PINコードが設定されていない端末からは利用できないようにする、IPアドレス制限により決められたネットワーク以外からはアクセスできないようにする、ファイルを端末にダウンロードさせないようにするなど、情報漏えいを防ぐための数々のセキュリティ機能を備えています。実際、これらの機能を組み合わせることで、私有のスマートフォンやタブレット端末からインターネット経由でLoGoチャットを利用するといったBYODでの運用を実施している自治体は多いですね。

コミュニケーションの課題解決のために「パブリテック事業」として開発

── どのようなきっかけでLoGoチャットを開発することとなったのでしょうか。

木澤氏  当社は「自立した持続可能な地域をつくる」ことを事業ビジョンとして掲げており、1,570の自治体が契約するふるさと納税のポータルサイト「ふるさとチョイス」の運営などを通じて、地域の経済循環の促進と地場産業の発展を事業としてきました。
 そうした中、平成30年に公共サービス(Public)を技術(Technology)で改革する「パブリテック事業」を展開することとなったのです。パブリテック事業では、単にデジタルテクノロジーを活用するだけでなく、デジタルを活用することによって創出できた時間に、職員の方々が地域住民のための“アナログで創造的な”仕事に打ち込んでもらえることを目指しています。
 そこで、自治体業務にどのような課題があるのか、平成30年度に複数自治体の協力のもと、30~40ほどの部署を対象にヒアリングを行いました。すると最も大きな課題として見えてきたのが、コミュニケーションにまつわるものだったのです。自治体では、電話やメール、FAX、会議等に多くの時間や労力が割かれていることがわかりましたし、多くの自治体から、LGWAN環境で使用できるコミュニケーションツールに関する要望も我々のもとに寄せられてきました。そこで、コミュニケーションのデジタル化は自治体にとって急務だと判断し、パブリテック事業初のサービスとして、全団体の業務効率化に資するチャットツールを開発・提供することとなったのです。

── 電話やメール、会議などでのコミュニケーションには、具体的にどのような課題があったのでしょうか。

木澤氏  電話ですと、担当者が不在の場合、別の人が要件を聞いてメモをとって担当者の机の上に置いておくといった作業が発生します。1回の作業は大したことはなくても、1日に 10件や20件となれば自分の仕事がずっと中断されてしまうことになります。
 また、インターネットからLGWAN側にファイルを受け渡したい場合や、庁内であってもファイル転送をするときなど、いちいちメールにファイルを添付して相手に届けている自治体が多いことがわかりました。1本のメールを5分としても、何件も重なるとかなりの時間が費やされてしまいます。
 会議については、まず会議室の空き状況を確認した上で、参加者の日程調整をメールや電話で時間をかけて行います。なんとか調整していざ会議室を予約しようとしたら、会議室が埋まってしまっていたので、再度日程調整をすることとなり、さらに1週間後や2週間後の日程になってしまった、というケースも珍しくありません。そして実際の会議でも、紙の資料をたくさん用意して参加者に配布し、それを見ながら進めていくことになります。これがチャットであれば、参加者の時間調整も簡単に行えますし、誰が読んだかも一目瞭然です。また会議前にデジタルな資料を共有できるので、実際の会議ではより濃密な議論も期待できますし、簡易的な会議であればチャット上で実施することも可能です。さらに議事録も、担当者が会議後に書かなくても同時進行でチャット内に書くことができますし、書きとどめておくノート機能もあります。これならば参加できなかった人も後で会議の内容を見ることができますし、時間切れで会議が途中で終わってしまっても、また後日にチャット上で議論を続けることも可能です。

業務の効率化や意思決定の迅速化で高い評価

── 利用している自治体からの反応はいかがでしょうか。

木澤氏  おかげさまで非常に好評をいただいております。特に大きく3つの点で評価をいただいております。まず1つは従来のコミュニケーション手段と比べて情報伝達や情報共有が効率的に行えるようになるなど、業務効率が向上したという声です。
 2つ目は、意思決定の迅速化です。とりわけ今回の新型コロナウイルス対策では、いかにスピーディに現場からの情報を集約して首長が意思決定を行い、上層部が指示を出すかが問われています。対面で行っていたのではかなりの時間を要してしまいますから、LoGoチャットの導入効果を感じてもらいやすいのでしょう。
 そして3つ目がコミュニケーションの活発化です。誰もが忙しいですから、細かい事柄までいちいち電話をかけて問い合わせることにはなかなかなりませんが、チャットであれば相手の時間を奪わないのでちょっと尋ねてみることなども気軽にできます。このため庁内でのコミュニケーションが非常に活発化したという話もよく耳にしますね。

── 自治体での代表的な活用ケースをいくつか教えてください。

木澤氏  自治体ごとに多様な利用法がありますが、複数の部署にまたがった情報共有をスピーディに行っている自治体が非常に多いです。また、現場を回ることの多い建築土木関係の部署では、モバイル端末で現場の写真をとってチャットに投稿、現場の状況を共有するといった使い方がよく見られます。以前であれば庁舎に戻ってから、例えばこの壊れ方であればどう対応するかなど議論していたのが、現場から判断を直接あおいでその場で対応できるようになるなど、業務が滞らなくなったというケースがかなりあります。
 他にも、複数の部署にまたがるプロジェクトや、出張や会議の多い上長への連絡・相談、情報課担当者と保守ベンダー等の事業者とのやりとりなどもメジャーな使い方となっています。
 さらに、災害などの現場対応をスムーズに行えるようにするのもLoGoチャットの重要な役割です。現場の状況や位置情報を庁内の対策本部や上層部と共有して迅速に意思決定を行うことは、住民の安全のためにも欠かせないことだと思います。これまでは、各現場から対策本部などに携帯電話をかけて口頭で状況を知らせて、その内容を対策本部の担当者がホワイドボード等に書き写して情報共有し、上層部がそれを読んで議論して意思決定をするといったように、かなり時間を要するプロセスが必要でした。
 また、LoGoチャットを複数自治体間で活用するケースも増えていて、私が聞いているだけでも30事例程度あります。県と県内市町村の連携や、システムの共同利用団体間の連携等に活用されているようです。

職員のリソースをより創造的な仕事に振り向けてもらうことを目指す

── 今後LoGoチャットをどのように発展させていき、また自治体でどのように活用されることを目指していますか。

木澤氏  LoGoチャットによる業務時間の削減効果を把握するために、アクティブユーザーの多い9自治体にアンケートをしており、現在、1,316人から回答が寄せられています。それによると、1人当たり1日に約28分の時間が削減されていることがわかります。これには、電話やメールの利用、会議移動の時間など、LoGoチャットを使わなければ本来かかっていたであろう時間も含まれています。年間にすれば111時間にもなり、ここまで1人当たりの時間削減効果のあるICTツールは珍しいと自負しています。
 そんなLoGoチャットが90万人にも及ぶ全国の一般行政職の方々に普及したとすれば、時間削減効果は1億時間にもなるはずです。この削減した時間が、自治体職員の方々の創造的な業務に打ち込む時間となることを目指しています。

活用している団体から、実際の利活用シーンについてお話を伺いました。

神奈川県横須賀市

部長級以上の
職員も積極的に活用

デジタル・ガバメント推進室
寒川孝之室長、片桐康至主査
御園生剛

デジタル・ガバメント推進室 寒川孝之室長、片桐康至主査、御園生剛氏

デジタル・ガバメント推進室主導で導入

 神奈川県横須賀市がLoGoチャットの利用を開始したのは本年4月からで、導入は同月に発足したばかりのデジタル・ガバメント推進室の主導によって行われました。同室はデジタルテクノロジーを活用しながら、機械で行える作業は機械に任せつつ、人間ならではの業務によりリソースを集中することで徹底的な行政改革を実現することをミッションとしており、LoGoチャット導入はその最初の仕事となりました。
 「新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、職員が在宅勤務を選択せざるを得なかったため、そのためのセキュアにコミュニケーションができる環境が必要だったことも導入のきっかけとなりました。民間で使われている各種コミュニケーションツールではセキュリティ面で不安があったため、昨年秋から検討を進めていたLoGoチャットを採用することにしたんです」と片桐主査は言います。
 現在、毎日ログインしているアクティブユーザー数だけでも2,000ユーザーに達しており、全庁的に活発に利用されています。

副市長も活用

 「全職員が活用すべしという号令が緊急事態宣言の中でかかったこともあり、部長級以上の職員も積極的に情報共有を行っています。副市長からは『本当に便利だ』という言葉も寄せられました」と寒川室長は言います。
 横須賀市では、セキュリティポリシーに則った上で職員の私用スマートフォンからでも使用できるようにしています。「今のところ公式にBYODを認めている業務系アプリケーションはLoGoチャットだけです。インターネット接続系とLGWAN系のネットワークをつないでくれるのは、大きなメリットの1つですね」と御園生氏は話します。
 今後、横須賀市では、チャットツールの活用文化を今年度いっぱいかけて根付かせた上で、来年度には全職員が使える環境を構築していくとのことです。

新潟県長岡市

台風被害を教訓に、
災害対策にも
徹底活用を目指す

情報システム管理課
鈴木公一主査、安藤稔彦主事

情報システム管理課 鈴木公一主査、安藤稔彦主事

LGWAN で使えるチャットツールが決め手に

 新潟県長岡市では、昨年11月にLoGoチャットのトライアル利用を開始し、本年3月に全庁的に導入しました。業務で利用することを徹底するために、組織や職級に応じた階層構造でアカウントを作成しています。
 導入のきっかけについて鈴木主査はこう語ります。「私は8年ほど前に民間経験者採用枠で入庁したのですが、前職がSIerということもあり、チャットでコミュニケーションをとることが多かったので、不便だなと日々感じていました。そうしたなかLGWAN-ASPのチャットツールがあると知り、これならば自治体でも安心して利用できるだろうとトラストバンクさんに話を聞き、すぐにトライアルを開始したのです」。
 安藤主事も、「導入当時は違う部署にいたのですが、早速使ってみたところ直感的にすぐに使いこなせるのでこれは便利だなと感じました」と言います。

便利さから「もう以前には戻れない」の声も

 利用者数は、本年2月の129人が4月には835人に、6月には1,216人にと確実に増え、BYOD(個人端末使用申請)も745件に達しています。
 また昨年10月に台風19号による大規模な被害を受けた同市では、災害対策における活用にも力を入れます。「危機管理防災本部や土木部各課をはじめ、災害対策にかかわる様々な部署で自主的にLoGoチャットを用いた訓練を行っています」と安藤主事は言います。具体的には、危機管理防災本部が、災害対策にかかわる職員約220名のトークルームを作成し、一声かければ情報が行き渡る体制を整えた上で研修をかねた訓練を6月13日に実施しました。
 その他、複数課の同時連携が必要不可欠な鳥獣害対策業務にも利用しており、「庁内ではメールでのやり取りも少なくなったので、便利すぎてもう元に戻れないという声をよく耳にします」と鈴木主査は笑顔で語ります。

埼玉県上里町

新型コロナウイルス対策
を契機に一気に全庁展開

総合政策課
岩崎賢二課長補佐、野崎洋平主任
蓮洋樹主任

新型コロナウイルス対策を契機に一気に全庁展開

緊急事態宣言下での2交代勤務を受けて迅速な導入を実現

 埼玉県上里町では本年4月17日にLoGoチャットの利用を開始し、3役を含めた全職員、合計196アカウントで全庁的に利用しています。
 岩崎課長補佐は導入経緯について次のように話します。「かねてより現場に赴いたり出張したりする職員との間でも便利に連絡がとれるコミュニケーションツールが欲しいなと考えており、情報政策について日頃からかかわりのある県内の深谷市に相談したところ、インターネットとLGWANとの間でシームレスに使えるLoGoチャットを推奨され、検討を始めていました」。
 そうした中、緊急事態宣言が発令されて2班体制の交代勤務となることが決定。出勤している職員と在宅の職員との連絡手段が必要となったため、本格導入することになりました。
 「4月13日にトラストバンクさんに問い合わせたところ、17日には稼働できてしまったように圧倒的にスムーズに導入できたこともあり、トライアルでの導入を決定しました」(蓮主任)
 4月20日から2交代勤務が開始されましたが、その時点で全職員がLoGoチャットを利用できる状態となっていたとのことです。「全アカウントの発行も私だけで行えましたし、職員についてもグループウェア上にイラストのイメージ付き資料で周知するなどしただけで、3分の1はすぐに利用できてしまいました。子育て共生課と上下水道課からは要望があり簡単な説明会も実施しました」と野崎主任は言います。

議会での利用も検討中

 様々な現場からの画像による情報共有をはじめ、すでに全庁で積極的にLoGoチャットが利用されている上里町ですが、議会事務局からの提案を受けて町議会議員との情報共有での利用も現在検討を進めています。
 「ちょうどペーパーレス議会を目指して議員の方々へのタブレット端末の配布を予定しています。それを用いてLGWAN環境内にある議会事務局とのセキュアかつスピーディな情報共有を実現することが狙いです」と野崎主任は力強く語りました。