本誌の読者の多くは、クラウドサービスには、①パブリッククラウドと②プライベートクラウドがあることはご存じかと思います。しかし、自治体では両者の違いが意識されることはあまりありません。まだ日本の多くの自治体ではパブリッククラウドは利用されていないからです。
自治体職員にとって、クラウドとはオンプレミスの対概念であり、外部のデータセンターでサーバーを共通化する、いわゆる自治体クラウドのことをイメージする方が多いと思います。これらは、パブリッククラウドではなく、プライベートクラウドです。パブリッククラウドといえば、Google Driveのように、誰でもインターネットから無差別に利用できる、自治体業務とは縁の薄いサービスのようにみなされています。しかし、このイメージは正解ではありません。パブリッククラウドは必ずしもインターネット経由であるとは限らず、専用線を利用する場合も少なくないですし、仮想的なプライベート領域を設けることも可能です。パブリッククラウドの本質は、コンピューター利用の完全な「サービス化」にあります。
従来はコンピューターを利用する場合、あらかじめ使用量の見通しを立ててリソースを確保し、いったん調達すれば、5年程度は使い続けなければなりませんでした。この方式には次のような様々な無駄があります。
これらは、情報システムなのだから仕方のないことだ、と受け止めている方も少なくないと思います。しかし、パブリッククラウドでは、これらの無駄をなくすことが可能となります。
パブリッククラウドは、事業者が保有する大量のコンピューターリソースを柔軟に割り振ることで、ユーザーがリソースを個々に囲い込むことなく共同利用することを可能とします。いわば、「所有」から「共有」へのパラダイム・シフトを実現したサービスです(図)。電気や水と同様の「サービス」なので、次のような便益を受けることができます。
プライベートクラウドには、これらの特徴は部分的にしかありません。例えば、自治体クラウドの導入はコスト削減をもたらしましたが、これは主として、自治体ごとに個別に情報システムを構築・運用していた非効率さを、サーバーの共同利用化や仮想化によって改善できたためです。
いまや世の中でクラウドといえば、ほぼパブリッククラウドを指すようになりました。多くの民間企業が基幹系も含め社内システムの完全クラウド化に踏み切っており、諸外国政府・自治体でも随分以前から、当たり前のようにパブリッククラウドを使っています。こうした潮流から日本の多くの行政機関は取り残されてきましたが、政府でも2年程前から「クラウド・バイ・デフォルト」の原則を打ち出すようになりました。調達の際には、まずパブリッククラウドを第一候補として検討することを求めるものです。後述するように、安心して使えるようにするための制度整備も着実に進んでいます。
かつてパブリッククラウドを導入できない理由としては、移行のリスクの大きさ、契約・支払手段のミスマッチ、セキュリティへの懸念、知識・スキルの不足などいくらでも挙げることができました。しかし、これらは表に示すように、もはや導入の制約条件ではなくなりつつあります。
こうした環境の変化を背景に、日本の自治体でも、埼玉県、徳島県、北九州市、浜松市、福岡市などいくつかの自治体で、パブリッククラウドを利用する事例が現れ始めています。
すべての情報システムがパブリッククラウドに向いているわけではありません。特定の機器でしか使えないソフトを用いている場合や、利用頻度が低く、移行コストにメリットが見合わない場合などは、オンプレミスやプライベートクラウドのままとした方が有利な場合があります。国のクラウド・バイ・デフォルト原則もあくまで第一「候補」とすることを求めるものであり、必ずしも常にパブリッククラウドを選定することを強要してはいません。しかし、パブリッククラウドは、従来は実現できなかったようなコスト削減や運用負荷の軽減を実現できる可能性をもたらします。初めから検討対象外としてしまっては、大きな機会損失をもたらしかねません。すでにパブリッククラウドは自治体にとっても現実的な選択肢となっているのです。