月刊J-LIS 2020年8月号

「より良い復興(Build Back Better)」へと導くSDGs

1 はじめに

 日本の人口は2008年をピークに減少局面に入っており、今後の人口減少、高齢化のなか、地方創生の一層の展開が重要です。「誰一人取り残さない」持続可能な社会を目指したSDGsへの取り組みは、地方創生に資するものであり、内閣府では、2024年度末までに全国の6割の自治体がSDGsに取り組むことなどを目標に掲げ、SDGsを原動力とした地方創生に向けた取り組み(「地方創生SDGs」)を推進しています。
 本稿では、SDGs未来都市をはじめとして、地方創生SDGsに関する最近の動向を解説します。また、SDGs未来都市における、地方創生SDGs推進による新型コロナウイルスの影響への取り組み事例についても紹介します。

2 地方創生とSDGs

 持続可能なまちづくりに向けて取り組みを推進するに当たって、「誰一人取り残さない」持続可能な社会を目指すSDGsの理念に沿って進めることにより、経済・社会・環境の三側面の統合等による政策全体の全体最適化、地域課題解決の加速化という相乗効果が期待でき、地方創生の取り組みの一層の充実・深化につなげることができます。
 昨年末に策定された、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略1)」(2020年度からの5年間)には、横断的な目標として、「新たな時代の流れを力にする」との項目が盛り込まれ、その中にSDGsを原動力とした地方創生が位置付けられました。
 また、地方創生SDGsは、政府全体のSDGsの取り組みの3本柱の一つに位置付けられており、昨年末に改定された政府の「SDGs実施指針2)」には、自治体に関し一層の浸透・主流化を図ることや、自治体に期待される役割として、体制づくり、各種計画への反映、ローカル指標の設置、地域事業者等を対象とした登録・認証制度の構築等が具体的に盛り込まれました。

3 SDGs 未来都市と全国の自治体への普及促進

 自治体によるSDGsの取り組みを推進していくには、模範となるモデルとしての先進事例の創出と、その普及展開が必要です。内閣府では、2018年度から、自治体によるSDGsの達成に向けた取り組みを公募し、優れた取り組みを提案する都市を「SDGs未来都市」として、これまで93都市を選定し、関係省庁が構成する自治体SDGs推進関係省庁タスクフォースによって支援を行っています。SDGs未来都市の選定は、自治体のSDGs推進のための取り組みとして、「将来ビジョンづくり」「体制づくり」「各種計画へのSDGsの反映」、さらに、「SDGs達成に向けた事業」等について、自治体からの提案を募り、有識者による検討会の評価を経て行われました。
 また、SDGs未来都市の中でも特に先導的な取り組みを「自治体SDGsモデル事業」として選定し、補助金等により支援しています3)
 2018年度には、29のSDGs未来都市及び10のモデル事業を選定、2019年度には31のSDGs未来都市及び10のモデル事業を選定し、2020年度には33のSDGs未来都市及び10のモデル事業を選定しました(表-1)
 なお、SDGs未来都市に選定された都市は、SDGs未来都市計画を策定するとともに、「SDGs未来都市等進捗評価シート」等を活用して、進捗管理を実施しています。SDGs未来都市に関しては、第2期の総合戦略の5年間で、現状93都市のところを、2024年度末までに、累計210都市とすることとしており、全国の自治体の皆様の積極的な応募を期待しています。
 また、第2期の総合戦略では、2024年度末までに、SDGsの達成に向けた取り組みを行っている全国の都道府県及び市区町村の割合を60%にするという目標を掲げ、普及促進を進めることとしています(図)。また、普及促進とあわせて、内閣府では、昨年8月に、「地方創生SDGsローカル指標リスト2019年8月版・第一版」を公表した他、地方創生SDGsの国内外への情報発信が重要であり、地方創生SDGs国際フォーラム4)の開催(昨年2月及び本年1月)などに取り組んでいます。

表-1 2018年度~2020年度SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業選定

表-1 2018年度~2020年度SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業選定

図 第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」における地方創生SDGsのKPI

図 第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」における地方創生SDGsのKPI

4 地方創生SDGs官民連携プラットフォーム

 民間企業においても、SDGsがビジネスの本業で地域課題を解決する流れが強化されつつあるなか、さまざまな地域課題に直面している自治体と、課題解決のためのノウハウ、技術、資本、ネットワーク等を有する民間企業・団体等とのマッチングを進め、官民連携による事業の促進につなげていくことが必要です。このため、2018年8月に、内閣府が事務局となり「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム5)」を設立しました。
 本プラットフォームは、設立から約2年が経過し、会員数は、本年6月末時点で1,962団体となっています。自治体は全都道府県・全政令市を含む631の自治体に入会いただいています。引き続き、マッチングの実施や、会員の皆様の積極的なご提案による分科会(昨年度37件)の取り組みを進めていきますところ、官民問わず積極的な参加を期待しています。

5 地方創生SDGs金融

 地方創生に向けた地域社会の課題解決に資するビジネスに一層の民間資金が投入され、地域経済の活性化を含む持続可能なまちづくりが実現することが重要であり、内閣府では、「地方創生SDGs・ESG金融調査・研究会」を設置して、地域課題の解決に向けたSDGs・ESG金融のあり方について、調査及び検討を行い、昨年3月に報告書6)を取りまとめました。報告書には、地域に関わる多様なステークホルダーが、地方創生SDGsの達成を通じて地方創生を実現することで地域課題の解決を図りながらキャッシュフローを生み出し、得られた収益を地域に再投資する「自律的好循環」の形成を目指すことが重要である旨が盛り込まれました。
 また、8月には、内閣府に「地方創生SDGs金融調査・研究会」が設置され、「登録・認証制度」「金融表彰制度検討、地方創生 SDGs に係る金融商品・サービスの事例の普及」「地方創生SDGs取組達成度評価」等について検討が行われました。11月には、報告書「地方創生SDGs金融の官民連携のパートナーシップによる自律的好循環形成に向けて7)」を公表しました。今後は、「地方創生SDGs金融スキーム」の実現に向けて、自治体による登録・認証制度等のガイドラインや地域金融機関の表彰制度等の検討を行っていきます。

6 上場企業・機関投資家等への地方創生SDGsの調査

 内閣府では、本年1月から2月にかけて、上場企業及び機関投資家等を対象に、①上場企業による地方創生SDGsへの取り組みの促進、②機関投資家等による地方創生SDGsへ取り組む企業への投融資の拡大、を目的にアンケート調査及び取り組み事例調査を実施し、3月に、報告書及び事例集8)を取りまとめました。
 地方創生SDGsに既に取り組んでいる企業が回答の約4割を占め、検討中を合わせると6割を超えました。ステークホルダーとの多様な連携については「必要である」と答える企業が約54%を占め、その企業が重視する連携先としては「市区町村」、次いで「都道府県」となりました。自治体との連携を重視する企業からは「自治体と企業によるマッチングの仕組み」のほか、「自治体と企業が連携した取り組み事例の見える化」「自治体と企業の連携に対する国の金銭的な補助」「自治体と企業間における情報共有・相談場所の設置」のいずれも自治体連携に有用な仕組みとして考えられています。さらには、約93%の機関投資家等が、ESGやSDGsを推進している自治体は、取り組みを行っていない自治体より資金を集めやすいと考えているとの結果が得られました。さらに、上場企業へのアンケートと同時に実施した、地域課題解決の取り組み事例調査では101社(165件)の事例を公表しました。
 今回の結果を踏まえ、内閣府では、民間企業の地方創生SDGsに資する「取り組み事例の見える化」による取り組みの裾野拡大、マッチングイベント実施などによる官民連携の機会創出などの取り組みを進めます。

7 新型コロナ感染症に関するSDGs 未来都市の取り組み事例

 今回の新型コロナウイルス感染症の拡大により、パンデミックのような地球規模の課題が、短期間のうちに、直接的に地域の経済・社会に大きな影響を与えることを再認識しました。他にも、気候変動が自然災害を引き起こして地域に甚大な被害をもたらしており、近年、グローバルな視点とローカルな視点の両方を持つことの必要性が高まっています。
 こうした状況を踏まえると、グローバルな取り組みの目標であるSDGsを、ローカルな視点でも捉える「SDGsのローカル化」(LocalizingSDGs)が一層重要になります。
 新型コロナの例でも、地域ごとに感染の状況、経済への影響は大きく異なり、さらに日々変化しています。新型コロナ対応もそれに合わせて、地域ごとに、感染拡大防止と経済活動のバランスを取りながら政策を判断していく必要があり、まさにローカルな視点が不可欠と言えます。
 こうした新たな事態に対応するには、SDGsのゴールの1つに掲げられている「パートナーシップ」の構築が有効です。3つの密の回避につながる「新しい生活様式」を確立するには、行政のみならず民間企業・団体の役割が重要です。例えば外出自粛時の食生活には、民間企業のデリバリーが大きな役割を果たします。新型コロナの時代にあって、これまで以上に官民連携が求められます。
 「SDGs未来都市」でも、官民連携で新型コロナに対応した事例が出てきています。
 内閣府では、本年6月に、2018年度・2019年度SDGs未来都市に、地方創生SDGs推進による新型コロナウイルスの影響への取り組み事例の調査を行い、7月に結果を公表しました9)(表-2)
 こうした事例に見られるように地域における各ステークホルダーとのSDGsを通じたパートナーシップは、新型コロナのようなこれまで経験したことのない事態に対応するに当たっても、積極的に活用されています。ぜひ他の自治体の皆様にも参考にしていただきたいと考えます。

表-2 地方創生 SDGs 推進による新型コロナウイルスの影響への取り組み事例(2018 年度・2019 年度 SDGs 未来都市)

表-2 地方創生 SDGs 推進による新型コロナウイルスの影響への取り組み事例(2018 年度・2019 年度 SDGs 未来都市)

8 おわりに

 昨年12月の第8回SDGs推進本部会合にて、総理は、「地方の未来なくして、日本の未来なし。SDGsを原動力とした地方創生の旗を引き続き高く掲げ、地方経済を支える中小企業によるSDGsの取り組みをさらに後押しし、SDGsの活力を全国津々浦々に行き渡らせることが大切です」と発言しました。内閣府としては、第2期の地方創生の総合戦略等を踏まえて、地方創生SDGsの取り組みを進めます。
 なお、地方創生SDGsの推進に関し、動画10)、関係資料リスト11)も公開中であり、研修などに是非ご活用ください。


  •  1)  第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/info/pdf/r1-12-20-senryaku.pdf
  •  2) SDGs 実施指針改定版(2019 年 12 月決定) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/pdf/jisshi_shishin_r011220.pdf
  •  3)  地方創生 SDGs・「環境未来都市」構想 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/
  •  4) 地方創生 SDGs 国際フォーラム http://future-city.jp/sdgs-event/
  •  5) 地方創生 SDGs 官民連携プラットフォーム http://future-city.jp/platform/
  •  6)  地 方 創 生 SDGs・ESG 金 融 調 査・研 究 会 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/kaigi/sdgs_kinyu.html
  •  7)  地方創生 SDGs 金融調査・研究会 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/kaigi/sdgs_kinyu2.html
  •  8) 上場企業及び機関投資家等における地方創生 SDGs に関する調査・検討会 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/kaigi/joujoukigyou_toushika_sdgs.html
  •  9)  SDGs 未来都市における地方創生 SDGs 推進による新型コロナウイルスの影響への取組事例 http://future-city.go.jp/data/pdf/sdgs/covid19-sdgsfuturecity.pdf
  •  10) 動画「地方創生 SDGs の推進」 http://future-city.jp/sdgs/
  •  11) 地方創生 SDGs 関係資料リスト http://future-city.jp/sdgs/list.html