月刊J-LIS 2020年8月号

事例紹介 大府市(愛知県) 資料等の電子化、電子会議導入でペーパーレス化推進

1 タブレット導入とペーパーレス化

(1)取り組みの背景

 2015年の国連サミットでSDGsが採択され、2016年には国から「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」が公表されました。
 本市では、市の総合的かつ長期的な行政運営の指針である将来都市像「いつまでも 住み続けたい サスティナブル健康都市おおぶ」を市民と共有し、持続可能なまちづくりを推進するために総合計画を策定しています。
 その総合計画に示す各施策の方向性は、国際社会全体の開発目標であるSDGsの目標とスケールは違うものの目指すべき方向性は同じです。総合計画に沿った様々な事業を展開していくことは、SDGsの推進につながっていきます。そのため、総合計画では、9つの政策目標に基づく施策体系とSDGsにおける17の目標の関係性を整理しています。
 各政策や施策の目標を達成するために重要な手段の一つがICTであるという認識のもと、本市におけるタブレットの導入、ペーパーレス化への取り組みが始まりました。

(2)ペーパーレス化の取り組み

①幹部職員の意識改革
 新しい仕組みを導入するためには、組織のトップにICTへの理解を深めてもらうことが重要になります。本市のタブレットの導入については、市長からのトップダウンが契機であったため、その意思決定は非常に迅速なものでした。次の課題は、いかにしてタブレットを展開していくかでした。
 最初は試験的に20台程度のタブレットを導入しましたが、当時はセキュリティ上の問題から、LGWANへの接続はできなかったため、タブレットでは内部事務系のシステムを使用することができませんでした。そのため、タブレットと内部事務で使用するノートパソコンの2台を併用するという、非常に使いづらい環境になっていました。
 そのような状況の中、幹部職員自らがタブレットを使用し、周りにアピールすることを決定しました。
 まずは、幹部職員で構成される幹部会議で紙資料の配布を取りやめました。そして、電子会議システムを使いつつ、電子資料を使用する会議方式へと移行し、その後の部下への情報展開も全てタブレットで行ったのです。
 幹部職員は当初、紙資料を使用しないという不慣れな環境に戸惑ったものの、徐々にその環境にも慣れ、タブレットやペーパーレス化に対する意識改革が進んでいきました。幹部職員が率先してタブレットを使いこなしている姿を全ての職員に示したのです。

②若手職員との意見交換
 タブレットの導入計画の推進と並行して、若手職員を中心としたプロジェクトチームを発足し、どのようにしたら事務が効率化するのか、ペーパーレス化を推進するには何をしたらいいのか、何度もディスカッションを行いました。トップダウンだけでなく、ボトムアップによるアプローチも実施することで、より一層、その効果を上げることを目指したのです。
 その結果、タブレットの機能を既存の事務に当てはめるだけではなく、従来、当たり前のように行われてきた事務のフロー及び各種規則の改善や、新たな提案等への言及にまで至りました。

③タブレットへの転換
 本市では、以前から職種・職務に応じて一人1台のノートパソコンを配布していました。幹部職員を始めとした全職員の意識改革が進んできた状況も踏まえ、平成31年2月には、全庁的にタブレットを導入することとなりましたが、ただ単にノートパソコンがタブレットに置き変わっただけという結果にならないように、タブレットの性能を十分に発揮できる環境も整備する必要がありました。そのため、「いつでも」「どこでも」「安全に」働けるようにするため、非常に高いセキュリティレベルを持った無線LAN環境を本庁舎に整備しました。
 行政職員の業務の形は非常に多岐にわたりますが、文書の作成を避けて通ることはできません。タブレットは持ち運ぶには非常に便利ですが、細かな表を作成するとき等は画面が少し小さいと感じることがあります。そのため、タブレットを配布するのと同時に各職員にディスプレイも配布し、事務効率が落ちないような配慮も行いました。その時々のシチュエーションに応じて、効率のいい働き方を選択できるようにしたのです。

④プリンタの撤去
 タブレットの導入前、市庁舎には部署ごとにプリンタを設置し、各フロアに共通で使用するための複合機を設置していました。タブレットの導入を契機としてペーパーレス化を推進するためには、今まで当たり前のように各課に設置してあったプリンタをどうするかが課題でした。紙資料が主体となっていた行政事務をペーパーレス化するためには、プリンタの撤去は越えなくてはいけない壁であったため、まず窓口業務と内部事務を切り分け、それぞれのプリンタや複合機の印刷枚数や、利用状況の実態調査を行いました。
 は、それを可視化したものの一部です。
 プリンタを撤去した場合、そこから印刷していたものは「印刷しない」又は「複合機から印刷する」のどちらかに振り分けられます。そこで、現状分析をもとに、プリンタを撤去した場合に、どれだけ複合機からの印刷枚数が増えるかを想定し、業務の運用に支障が出ないかどうかを検討しました。また、複合機の利用割合も同時に調査することで、複合機の設置場所が適正かどうかの検討も行いました。
 それらの分析結果をもとにヒアリング等を行った結果、内部事務系のプリンタの原則撤去が実現しました。印刷が必要な場合はフロアに設置してある複合機から印刷するという環境を構築したのです。

⑤その他の取り組み
 紙資料から電子資料へと移行する場合、電子資料の格納場所をわかりやすくしておく必要があります。本市の内部事務系システムにおける電子資料の格納場所についても検討を重ね、誰でもわかるようにその構成を変更するような工夫を行いました。
 また、ノートパソコンからタブレットに転換することにより、機器の持ち出し状況が激変することが想定されたため、セキュリティポリシーも合わせて改訂をしています。

図 各課印刷枚数の現状分析(平成29年8月20日~平成30年8月19日)

図 各課印刷枚数の現状分析(平成29年8月20日~平成30年8月19日)

(3)電子会議の実施

 タブレットを導入することで、自席以外でも電子資料を閲覧することが容易になりました。そのため、内部会議において紙資料の配布を取りやめ、それぞれの職員が持参したタブレットを用いて会議を進行することが可能になりましたが、ここでも様々な問題が発生しました。
 電子資料は作成単位ごとにファイルが分かれてしまうため、会議資料を閲覧する側の立場になった場合、どのファイルを見ていいのかわかりやすくしなければいけません。もともと、本市では電子決裁の導入時に、決裁行為がスムーズに進むように添付ファイルをワンファイル化するというルールを設定していましたが、このルールを会議資料等の作成時にも適用させる必要が生じたのです。
 また、今までの会議の資料が紙から電子に変わっただけでは、「電子会議」を積極的に行う動機にはなり得ないと考え、より効果的に会議を行えるような工夫として、各フロアへの超近接型プロジェクタの設置や、会議室へのディスプレイの貸し出しも行うようにしました。説明者が、参加者の視覚に訴えることで、よりわかりやすくプレゼンテーション等を行える環境を構築したのです。

写真 電子会議の様子

写真 電子会議の様子

2 ペーパーレス化の成果と課題

①紙の削減
 タブレットを活用し今まで紙で作成していた資料を電子化することで、令和元年度のA4用紙購入量は36万枚以上の削減(前年度比7.1%減)となっています。タブレットを導入して日が浅いため、削減量はそれほど伸びていませんが、ペーパーレス化の意識が浸透するに従い、紙の削減量は増えてくると考えています。
②人件費の削減
 職員同士の打ち合わせや、庁内会議で使用していた人数分の資料印刷や資料組みをする必要がなくなりました。また、それだけでなく、資料を印刷しないため、会議の直前に資料の修正が必要になった場合でも、迅速に対応できるようになりました。
③省スペース化
 もともと、紙資料については各課のキャビネットに格納していましたが、年数経過による資料の増加で、キャビネットの保管スペースはパンク寸前になっていました。しかし、電子で資料を保存することで、紙資料の保管スペースの削減が可能になり、副次的な効果として、文書の検索もスムーズになりました。
④電子化の壁
 ペーパーレス化を推進するためには、決裁等に使用する資料を電子化することが必要です。しかし、全ての文書を電子化するのは非常に困難です。例えば、非常に大きな図面や冊子等を使って説明する場合は、資料を電子化するのは現実的ではありません。電子決裁化している本市においても、これらは紙資料を用いるルールとしています。
 また、財務会計についても、その件数は非常に多いものの電子決裁化はしていません。添付資料の様式や媒体が非常に多様に渡るため、全てを電子化し、ペーパーレス化するのは、必要となる事務量と比較した場合、デメリットが大きくなってしまうからです。
 紙資料と電子資料の両立が必要となってしまう現状、どこまでペーパーレス化するのか、そのバランスを見極める必要があります。
⑤ルールの形骸化
 ペーパーレス化を推進するため、本市では各種ルールを設定しています。前述した添付書類のワンファイル化や、複合機から印刷するのは最低限のものとするといったルールです。
 ワンファイル化するための手間を惜しんでしまうと、資料を閲覧する側にとって非常に使いづらい仕組みになってしまいます。また、紙資料の方が使いやすいといった意識が強く残っている場合、つい印刷をしてしまう場合も想定されます。
 少しの気の緩みから、ルールの形骸化が始まってしまいます。ペーパーレス化の推進を続けていくためには、ルールが形骸化しないように、継続的に研修等を実施し、啓発をしていく必要があります。

3 新型コロナウイルス感染症の流行

 新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、多くの人に、日常のあらゆる場面で深い影響を与えています。それは、私たち自治体職員の働き方においても例外ではありませんでした。市町村の業務は、市民生活に密接に関係しているため、その継続性だけでなく、新型コロナウイルス感染症対策の最前線の一翼としての機能も求められています。
 目まぐるしく変わる状況の中、情報共有をいかに漏れなく行うかが懸念事項ではありましたが、本市が積極的に進めてきたペーパーレス化に伴う文書の電子化により、幹部職員から係員まで、効率的に情報共有を実現することができました。それにより、市民の方へ、市独自の施策も含めた様々な支援策をより迅速に実施することができたのです。
 市町村は多くの役割を担っていますが、新型コロナウイルス感染症の流行などが原因で職員自体が倒れてしまっては、その機能が止まってしまいます。そこで、本市においても、業務を継続していくBCPの観点から、密を避けるためのサテライトオフィスを始めとしたテレワーク制度や、シフト勤務の拡大などを積極的に実施しました。
 その結果、本市ではあまり活用していなかったウェブ会議も頻繁に行われるようになり、機密情報の取扱いには注意すべき事項があるものの、今まで以上に、紙で用意されていた資料の電子化も進みました。
 また、密を避ければ、お互いに顔を合わせて情報共有する機会も減ります。いかにポイントを押さえて情報を共有化するかといった問題意識も職員の間で生まれたのです。

写真 ウェブ会議で新型コロナウイルス対策等を議論

写真 ウェブ会議で新型コロナウイルス対策等を議論

4 ウィズコロナの時代を迎えて

 ウィズコロナの状況においては、テレワーク制度の拡大や、コミュニケーションツールの充実、行政手続きのオンライン化などを進めていかなくてはいけません。今までと違った、新しい働き方を実現するために、それぞれの自治体が新たな環境を構築していく必要があります。
 ペーパーレス化の課題として、電子化の壁があることは前述したとおりですが、本来電子化可能な文書であっても、電子化できていないものも少なからず存在しています。
 新型コロナウイルス感染症がきっかけの一つとなったものの、新しい働き方を実現するために構築した環境のポテンシャルを十分に活用するためには、電子化の壁を越え、今まで以上に文書の電子化を進める必要があります。
 電子化される文書の範囲が広がることで、新しい働き方の幅も広がっていくと考えています。

5 おわりに

 本市がこれまで大切に育んできた「健康都市」というまちのブランドを、「独自性」「先駆性」「付加価値性」といった観点から市民、地域、事業者等との協働により、更なる磨き上げを行い、SDGs(持続可能な開発目標)の基本姿勢でもある持続可能なまちを創造する「健康都市」の実現を目指すためにはICTは非常に有効なツール・手段の一つになります。
 タブレットの導入や、ペーパーレス化の推進も「健康都市」の実現を目指すための手段の一つです。また、今回の新型コロナウイルス感染症の流行下などにおける事業の継続実施にも、非常に有効なものです。
 しかしながら、ペーパーレス化推進のために著しく事務量やコストが増大してしまえば本末転倒になってしまうため、その効果を検証し、発生する課題を把握・解決しながら、ペーパーレス化をバランスよく継続していく必要があります。
 ペーパーレス化の推進は、既存の事務フローを見直すチャンスでもあります。情報システム部門、文書管理部門及び担当部署がそれぞれ連携することで、そのチャンスを活かすことが可能になってきます。
 今後も、常に何が最適かを意識し、新たな技術も導入しながら、全庁的に効果的なペーパーレス化を推進してまいります。