鹿児島県は、南北600kmの広域にわたる地理的な環境の中で教育を行っています。複式学級を有する割合が全国1位の本県、離島へき地にある本町でも複式学級を有する学校は小学校で63%(県44%)、中学校で50%(県13%)あり、半数以上が小規模・複式学級です。
本町でも少子化や過疎化が進行する人口減少社会を迎える中、現行の学校規模(小学校6校・中学校4校・小中併設校2校)を維持することが困難な学校が増加することが見込まれ、小・中学校再編協議会(平成24年)で地域の実情に応じた少子化に対応した活力ある学校教育のあり方が協議されました。その中で、小規模校のメリット・デメリットへの対応を含め、地域コミュニティの核としての性格への配慮等、学校が持つ多様な機能にも適切に対応する必要から取り組みを始めました。
複式学習指導においては、一般的に主体的に学ぶメリットがある反面、多様な考えに触れる機会が少なくなりがちで教育の直接指導も短いという課題もあります。また、複式指導経験のある教員が少なく、少人数の教員間では、複式指導の指導法研究も深まりにくいという課題もあります。これら複式指導における課題を遠隔合同授業の導入によって改善できるのではないかと考え、平成27年度から3年間、本町の3校において文部科学省(以下「文科省」という)の実証研究事業を推進しました。その後、本町の小規模校5校に拡大し実践した遠隔合同授業を「徳之島型モデル」と呼びます(図-1)。
遠隔地の2つの複式・小規模校で双方向に授業を実施し、1つの教室の中に2つの遠隔合同授業を構成し、両校の担任がそれぞれ1学年ずつを主として担当します。
距離を超えて同学年同士を「まるで1つの学級空間」として、全国的にも初めての取り組みでもある複式双方向型の遠隔合同授業を実施するとともに、以下の仮説と視点を設定しました。
●「徳之島型モデル」の仮説及び視点
仮説1
遠隔合同授業に適した単元や場面を設定することで学びの質が向上し、児童や教師の意識、学習効果に変化が見られるのではないか。
視点1
①遠隔合同授業に適した単元の精選とねらいの明確化、②定期的な3校合同研修会の実施と指導計画の作成(その後拡大)
仮説2
教師と児童が直接対面する機会が増加し、児童の主体的な活動を促す支援が可能となるのではないか。
視点2
①複式指導における遠隔合同授業の活用(複式双方向型)、②児童の学習状況の把握
仮説3
2つの遠隔合同授業に伴う打ち合わせや機器の準備に時間を要する課題を解決すれば、日常化に向けた授業環境が整うのではないか。
視点3
日常化に向けた工夫や対策検討
現在まで5年間の多様な実践をもとに、検証した主な内容とその効果を以下に示します。
文科省の実証研究事業終了後も継続する中で(平成30年度~令和2年度)、徳之島型モデルは、本町の小規模校や複式学級の抱える様々な課題に対する効果として、具体的に次の「教育の質の維持向上」を図ることができました。
一般的に、小規模校では教員数が少なく、教員同士の相談や研究、協力が行いにくい課題があります。 このような課題解決のために本町では、各校をテレビ会議システムで結ぶことにより、5校合わせた教職員数30名、児童数90名の規模で研究・指導が一体的に実施できるようにしました。
例年実施している標準学力検査において、遠隔合同授業を実施した単元の正答率(全国比)は表-1のとおりです。遠隔合同授業を実施した成果が出ています。
図-2のとおり、テレビ会議の画面を通してではありますが、教師と児童が直接対面する機会が大幅に増加し、児童の主体的な学習を促す支援ができました。
4月実施の全国学力・学習状況調査の質問紙回答と遠隔授業を通しての自己評価(関連する内容を抽出)を比較した結果が表-2です。
新型コロナウイルス感染症により、本町においても、全ての学校を数日間、臨時休校の措置としました。図-3は、休校中の家庭での学習等への対応について、遠隔教育との相乗効果を4校のアンケート結果としてまとめたものです。
本町は、昨年7月1日、県内自治体で初めて内閣府の「SDGs未来都市」に選定され、「あこがれの連鎖と幸せな暮らし」の実現に向けた取り組みを始めています。また、本年度の夏には、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産への登録を目指しています。町内の各小中学校においてもこのような動きと連動しながら、持続可能な教育の取り組みを推進しているところです。
さらに、昨年度、町総合教育会議において、今後5年間を見据えた教育大綱を改定し、基本方針に「未来を創造する新たな教育への挑戦」を掲げ、新時代の最先端技術活用の推進を通して「最先端の学びの町」をめざした様々な取り組みを実現するよう将来目標を定めました。
具体的には、本年度より国の「GIGAスクール構想※)」や「1人1台の学習端末の整備」を推進するとともに、全小中学校での遠隔教育の実施や「施設分離型小中一貫校」としての再編を予定しています。
今後も、島の宝である子どもたちの「将来の夢の実現」に向けた教育環境づくりを学校や地域と連携しながら強力に推進してまいります。