月刊J-LIS 2020年8月号

PICK UP! 東京都・アクセス集中対応のためのガイドライン 東京都戦略政策情報推進本部ICT推進部情報通信運用課

1 はじめに

 自治体ホームページは、避難情報等が発信されることから、住民が情報を入手するうえで重要なツールの一つです。
 令和元年台風19号通過前後には住民からのアクセスが集中し、自治体のホームページの表示が遅い、または閲覧ができないという事象が発生しました。今後同様の事象が発生しないように、都は都内自治体が事前に実施できる技術的な対策等をとりまとめ、令和2年2月に「アクセス集中対応のためのガイドライン」を作成しましたので、その概要をご紹介します。

2 アクセス集中時の対応方針――基本的な考え方

 Webシステムのアクセス集中対策として事前にできるものは、①アクセス負荷を分散する、②アクセス負荷を軽減する、の二つです。
 具体的には、①アクセス負荷を分散する手法として、コンテンツデリバリーネットワーク(Content Delivery Network。以下「CDN」という。)や自治体特有の手段としてYahooキャッシュサイトがあり、②アクセス負荷を軽減する手法として、ホームページ自体またはホームページを構成する画像などのコンテンツの軽量化があります。
 自治体のWebシステムについては、各都道府県がセキュリティ確保のために自治体情報セキュリティクラウドを構築しており、基本的に自治体のWebサーバーはその配下にあります。自治体セキュリティクラウドは複数の自治体で共用されているため、各自治体が互いに協力しながら、そのリソースを適切に使用することが必要となっています。

3 CDNの利用

(1)CDNとは何か

 CDN は、インターネット上でさまざまなコンテンツを大量に配信するためのネットワークシステムです。通常は、CDN事業者がサービスを提供しています。
 CDNの基本的な仕組みは、インターネット上に分散整備されたサーバー群、キャッシュ機能と配信機能の組み合わせです。コンテンツの配信要求に対して、本来コンテンツを配信するWebサーバー(以下「オリジンサーバー」という。)の代わりに、インターネット上に分散整備されたサーバー群がキャッシュされたコンテンツを配信します(図)
 CDNを導入した場合、オリジンサーバーのサイトをAとすると、おおむね以下の動きをします。

  •  ①エンドユーザーがサイトAのアクセスを要求(名前解決リクエストが実行される)
  •  ②サイトAのDNS上でCDNのホスト名(FQDN)をCNAME設定し、CDNのDNSにおいてCDNサーバー群のIPアドレスをエンドユーザーに返答
  •  ③エンドユーザーは、返答されたCDNサーバー群にアクセス
  •  ④CDNサーバー群は、エンドユーザーから要求されたコンテンツが、CDNにキャッシュがなければオリジンサーバーにコンテンツを要求し、オリジンサーバーから入手したコンテンツをキャッシュしたうえで、CDNがエンドユーザーに配信
  •  ⑤CDNサーバーにコンテンツのキャッシュがある場合、キャッシュの有効期限内であればエンドユーザーにキャッシュコンテンツを配信し、キャッシュの有効期限外であれば、④のCDNにキャッシュがない場合の動作を行う
 自治体WebシステムにCDNを導入する場合、エンドユーザーとセキュリティクラウドの間に設置します。

図 CDNプラットフォーム

図 CDNプラットフォーム

(2)CDNの設定

 CDNの基本的な動作に最も影響するのは、コンテンツのTTL(Time To Live:CDNキャッシュの有効期限)をどのように設定するか、という問題です。TTLを長くすれば、エンドユーザーからの配信要求に応じてCDNのキャッシュからコンテンツを配信できる割合が増える(キャッシュヒット率が高くなる)ため、オリジンサーバーへのアクセスが減り負荷は小さくなりますが、オリジンサーバーで更新した新しいコンテンツがエンドユーザーに配信されるまでの時間が遅れる可能性があります。
 このため、比較的サイズが大きく更新頻度が低いコンテンツのTTLは長くし、比較的サイズが小さく更新頻度が高いコンテンツのTTLは短くすることが、基本的な考え方となります。
 このCDNの特性から、できるだけ早く提供することが求められる避難情報等については、以下のようにコンテンツを作るべきです。

  • ・テキスト中心のコンテンツにする
  • ・一つのhtmlファイルやテキストファイルに掲載する
  • ・自治体Topページのように、他の情報とともに避難情報を掲載する場合は、iframeなどを用いてインラインに表示する

 TTLに関する設定は、基本的に、ファイルサイズが比較的小さいWebページの骨格となるhtml、CSSについては短めに設定し、ファイルサイズが比較的大きく更新頻度が少ないコンテンツであるPDFや画像ファイルについては、変更頻度・運用方法等を考慮して、TTLを(極力長く)設定します。
 CDNの動作に影響を与えるものは、TTL以外に、ユーザーの特定やユーザーの利用環境に応じてWebの応答を変えるなどの際に使用される、リクエストCookieやクエリストリングの使用があります。WebページでリクエストCookieやクエリストリングを使用する場合、実装によっては、同一のページの配信要求であっても、CDNは同一の配信要求とは判断できず、キャッシュから配信されず、オリジンサーバーへアクセスする場合があります。
 ユーザーの特定やユーザーの利用環境に応じてWebの応答を変えるWebページを作成する場合は、コンテンツ作成委託事業者やCDN事業者と調整のうえ、CDNのキャッシュ機能が有効となるようなCookieやリクエストストリングの実装を検討してください。そのうえで、「Cookie付きリクエスト」に対してキャッシュから配信するようにCDNに設定します。
 実際のCDNの設定に当たっては、多くの設定項目があり、細やかな設定ができるので、上述の記述を基本方針として、サービス事業者に相談することを推奨します。

4 コンテンツの軽量化

(1)非常時用コンテンツの事前準備

 非常時用コンテンツは、即時に利用できるように平時からより軽量化して準備しておきます。特に、防災ページについては平時から閲覧可能としておきます。平時から閲覧可能とすることで事前にブックマークされるなど、非常時にも切り替え等の対応をすることなくGoogleやYahoo等の検索結果に表示されるため、利用者のアクセス分散が期待されます。

(2)非常時用コンテンツについて

 非常時用コンテンツは、テキスト主体の軽量なコンテンツページで作成します。特に災害ページについては、表示される画像ファイル数も制限し、1ページあたりの推奨データサイズよりさらに軽量化します。
 随時更新される避難所情報等については、PDFやWord形式で提供するのではなく、テキスト形式で提供するようにし、iframe等を用いて防災ページやTopページから呼び出されるようにします。

(3)コンテンツの軽量化

①1ページあたりの推奨データサイズ
 ブラウザは、ページを表示する際に、ページを構成するすべてのコンテンツ(html、CSS、JavaScript、画像、ハザードマップ、文書など)をWebサイトからダウンロードします。
 Googleは1ページあたり1.6MB 程度を推奨し、一般的には2~3MB程度のデータサイズを目安とすることが望ましいとされています。
 同様のことは、非常時用コンテンツやハザードマップ等にもあてはまります。
②画像を軽量化する
(ア)ファイル形式
 Webページで提供する画像で利用されるファイル形式の多くは、PNG、JPGです。それぞれ次のような特長がありますので、提供する情報の画像に応じた適切なファイル形式を選択し使い分けます(表-1)
(イ)画像の大きさ
 Webページで提供する画像については、htmlで指定された大きさに合わせてブラウザで縮小表示されますが、ダウンロードされるサイズはファイルサイズであるため、適切な大きさに縮小やトリミングして、サイズの軽量化を行います。
③文書を軽量化する―PDFファイル
 文書に含まれるハザードマップ等の画像ファイルを軽量化してからPDF作成を行います。
 PDFを作成する環境によっては次のオプション指定ができる場合があります(表-2)
 Microsoft Office文書(Word、Excel、PowerPoint)からPDFを作成する場合には、「最小サイズ(オンライン発行)」を選択してPDF形式でファイルを作成します。

表-1 画像形式による特長と使い分け

表-1 画像形式による特長と使い分け

表-2 PDFのオプション

表-2 PDFのオプション

5 その他のツール

(1)Yahooキャッシュサイト

①仕組み
 Yahooキャッシュサイトは、Yahoo!Japanと災害協定を締結した自治体に対して提供されるCDNサービスに類似のサービスです。
 しかしながら、Yahooキャッシュサイトは、一般的なCDNサービスといくつか異なる点があります。ここでは一つだけ取り上げます。
 その異なる点とは、CDNサービスでは、利用者は自治体ドメインのURLを用いてアクセスしますが、Yahooキャッシュサイトの場合は、YahooキャッシュサイトのドメインのURL(自治体のドメイン名.cache.yimg.jp)を用いてアクセスするという点です。
②誘導方法
 Yahooキャッシュサイトは、URLが決まっているため、あらかじめ、自治体のホームページでの案内や、後述のようなSNSを用いた案内方法が考えられます。

(2)SNSの利用―Twitterの特長

 Twitter は、原則として誰でもツイートを見られるという特長があります。普段Twitterを利用していない人でも、Webブラウザから自治体のツイートを閲覧することができることから、現状では自治体が広く情報を周知するうえで最適なツールであり、既に多くの自治体が情報発信に利用しています。
 Twitterの情報発信は文字数の制限があるため、短く概要を記載したうえで、詳細を案内したホームページへのリンクを含めることが良いでしょう。
 CDNを利用していない団体については、含めるホームページへのリンクをYahooキャッシュサイトにすることで、自治体ホームページへのアクセス集中を緩和するとともに安定的な情報発信を行うことができます。

6 まとめ

 アクセス集中対策として、CDNサービスの導入とコンテンツの軽量化やその他のツールを紹介しました。割愛した内容もありますので、全体版については、東京都戦略政策情報推進本部情報通信運用課にお問い合わせください。

■ お問合せ先
東京都戦略政策情報推進本部 ICT 推進部
情報通信運用課セキュリティ担当
Mail:S1080202@section.metro.tokyo.jp